No.052ワークショップ 「Communicate」

ワークショップ 「Communicate」

気の赴くままに、自由に楽しむ花との対話

目指しているのは、花屋じゃない花屋

ビルの3階という立地も、真っ黒なカーテンで覆われた仄暗い空間も、店内に生花が並んでいないことも。どれをとっても、所謂“花屋”の概念を大きく覆します。苔を全面にあしらった太い幹から天井へと広がる大木をイメージした、神秘的で生命力の溢れる巨大オブジェ。ガラスのショーケースには、蝋引きの花を配したアートのようなアレンジ。そんな、まるでギャラリーのような独創的な空間に溶け合う、モノトーンで統一した洋服を身に纏うふたり。平和公園からほど近い元安川沿いの雑居ビルの中に店を構える『noo.』の野村祐喜さん、紅子さん夫妻です。「花屋じゃない花屋になりたい。店舗で花を売る、という感覚になりたくない」。そんな想いから、月に数日のオープンデーのみお店を開放し、その他はオーダー制で花束やアレンジを製作しています。「こんな場所だし、オープンしている日は少ないし、とにかく入りにくいとよく言われるんですけどね。それを乗り越えて来てもらえたら。意外と普通の人がやってますから」と笑う祐喜さん。「花を買わなくても足を運ぶ価値があると感じてもらえるような、そんな空間を目指しています。美術館のような、ね」。

門前払いされた経験が奮起するきっかけに

元々は2歳離れた兄と共に花屋を営んでいた祐喜さん。「その頃から、花の在庫を持たず、自分の作りたいイメージの花のみを仕入れて作るスタイルでした。花を無駄にすることもないし、鮮度のいい花を使うことができるので長持ちする。花にとってもお客様にとってもいいことばかりなので、そのスタイルを選んだことは自分たちにとっては自然なことでした」。今でこそ、店舗を持たないオーダーメイドの花屋は珍しくありませんが、2009年当時の広島の花屋業界では異端な存在だったそうです。「ブライダル業界に営業に行っても門前払いばかり。用意したプレゼン資料すら見てもらえませんでした」と当時を振り返ります。「それならあちらから声をかけてもらえるくらいになってやる! と、逆に奮起しましたけどね」。不屈の精神とブレない姿勢で、自分達の信じる新しい花屋のカタチを突き進んだ祐喜さん。その想いは確実に浸透し、徐々に店は軌道に乗り始めます。「元々経営者向きの兄は、その頃から他にもいろいろな事業を立ち上げ始めていて。そのタイミングで、それぞれの道を進むことを決めました」。

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夫婦ふたりになって、少しずつ花屋らしく

祐喜さんの基盤になっているのは、広島を始め、東京や福岡など全国区で展開する『サンジョルディフラワーズ』でのデコレーターの経験。「ベンチャー企業だったので、とにかく発想が革新的で。他にはない花屋でした」。そして、その店で出会ったのが現在共に店を営む妻の紅子さんです。「結婚した時から、いつかふたりで店を持ちたいと思っていました」と言う祐喜さんに、「そんなこと初めて聞いたけど(笑)」と紅子さんはくすり。3児の母でもある紅子さんは、出産を機に長年勤めた『サンジョルディフラワーズ』を退職し、夫の祐喜さんと共に店に立ち始めました。今までは配達なども1人で行っていたため、お店を空けることが多かったけれど、紅子さんのおかげで少しずつオープンデーを増やすことができるようになったと言います。「ちょっとだけ、花屋らしくなってきたかな(笑)」。ふたりの姿からも見てとれますが、感性も好きなものも似ているふたりは、ぶつかることもほとんど無いのだとか。「人見知りなところも似てるんですけどね」と笑いつつも、「僕は癖が強いところがあるから、人当たりのいい彼女のおかげでお店のバランスが取れているんです」と祐喜さん。

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自分にとっての心地よさを見つける時間

唯一無二なこの空間を使って、ふたりが本当に好きなものだけをセレクトしたライブやイベント、個展なども不定期で開催。“Communicate”とタイトルを付けたワークショップは、その名の通り、花とのコミュニケーションの場に、という想いが込められています。「講師が細かく決めてしまうとそれは講師の主観でしかなくなってしまう。だからとにかく自由に。用意した花材を全部使わず余らせるのも自由。その人の正解を見つけてもらえたらと思っています」。ひとつひとつ色や大きさ、動きも異なる植物たちを手にとって感じながら、探りながら、自分が心地いいと思うところまで。「もちろんアドバイスもします。でも自分がいいならそれでいい。同じ花材を用意してもみんなまったく違うものができる。だからこそおもしろいんです」。そうして植物と対話をするように没頭していると、いつしかそれは自分自身を見つめる時間に。誰かや何かに流されることなく、気の赴くままに。「好き」がはっきりとしたブレないふたりが提案してくれるその時間は、心が素直によろこぶ新しい体験。1人で参加はもちろん、気心の知れた友人とグループワークショップも。終了後にフードやドリンクを持ち込んでこの空間を堪能できるのもスペシャルな時間です。

写真・取材・文 柚木藍子

店舗情報

写真:ワークショップ 「Communicate」

ワークショップ 「Communicate」

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