No.068カフェオレボウル

カフェオレボウル

器の向こう側にある“幸せな時間”を作る因島の陶芸家

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アートやカフェも楽しめるお洒落な食器店。

陶芸家・吉野瞬さんのアトリエ兼店舗「Faro LUCE」は、尾道市因島の瀬戸内海が一望できる海岸沿いにあります。店名のfaroはイタリア語で灯台、LUCEはひかり。帰る場所、そして発信する場所、という意味が込められているそうです。店内は、アンティークな家具やアートな装飾に囲まれたおしゃれな空間で、いわゆる“食器を売るお店”とは違った雰囲気。吉野さんが陶芸家になったきっかけや作品作りへの想いなどをご紹介します。
出身は広島県安佐北区で、幼少期から運動と物づくりが好きだった吉野さん。一番最初の夢は“木こり”で、中学2年の時に『シティボーイになりたい』という憧れを抱き、広島市内にある基町高校の【創造表現コース】を受験することに決めたそうです。ほとんどの先生に無理だと言われる中、絶対に基町高校で美術を学びたかったので、必死で猛勉強。唯一応援してくれた美術の先生が、部活後に居残りでデッサンなどを教えてくれて、その時に学んだ“物の形を捉える技術”は、現在も役に立っています。

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十二代 三輪休雪にアポなし直撃! 迷った時は楽しそうな方へ

基町高校に入学後、二年の科目選択で陶芸も学べる工芸コースを選んだことが、陶芸家を志す一番のきっかけでした。三年の受験シーズンには、進路として本格的に陶芸の道を目指したいと思いながらも、実際の陶芸家がどういったものか全く分からなかったので、単身で山口県の萩へ。そこでなんと、十二代 三輪休雪(現・龍氣生)氏にアポなしで直撃・交渉して、陶芸家の日常を見せていただくことに成功します。仕事としての厳しさを垣間見ながらも、お手伝いさん付きの大豪邸暮らしは、とても夢があると感動。その経験が、陶芸家への道を歩む決定打となりました。

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辛かった修行時代を経て。ターニングポイントは広島での初個展。

修行時代の思い出は「厳しい」の一言。最初の3年は、土にもほとんど触らせてもらえなかったそうです。ようやく“ろくろ”に座らせてもらえるようになってからも、親方が「良し」と言うまで同じ工程を繰り返す日々。仕事が終わった後に親方の作ったコップを延々と模倣したりを繰り返しながら、やっと湯飲みが作れるようになったそうです。7年目でようやく自由に自分の作品を作れるようになり、創作欲求が爆発。独立までの1年間で1200個もの作品を作り、一番最初の作品は実家のお母さんへの贈り物となりました。
2012年には、広島市中区の「gallery G」で初個展を開催。「個展には本当にたくさんの方が来てくださいました。誰かが自分の作ったもので喜んでくれるのが本当に嬉しくて、陶芸家はすごく幸せな仕事だと感じました。修行が辛すぎて常に辞めたいと思っていたので(笑)、ここで初めて陶芸家としてやっていこうという決意が芽生えました」。この個展をターニングポイントに、陶芸家としてアトリエを持つことを決め、現在の場所にお店をオープンしたそうです。

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おうちでホッとひと息する時に使って欲しい「カフェオレボウル」

カフェオレはホっとする飲み物で、暖かいイメージがあります。現在はコロナの影響もあり家で過ごす時間が増えているので、一息つく時に使って欲しい器として選んだそうです。
このカフェオレボウルの中には、8年間の修行で培った伝統技術がたくさん詰まっており、例えば白い縦線は益子焼の伝統的な釉薬で、米の籾殻で作る「糠釉(ぬかゆう)」というもの。「掛け分け」という伝統技法で、ポコポコした立体感と触り心地を実現しています。この特徴的な縦模様は滑り止めのような役割も果たしており、手にフィットする湯飲みをイメージして作られています。
「僕はお皿を作っていますが、ただ器を作っているわけではなく、“その器を使って食事をする時間”を作っているんだ、という思いを忘れないようにしたい」と、作品作りへの思いも語ってくださった吉野さん。全ての作品から、そのあたたかいお人柄を感じられます。今後は、柄のお皿に慣れていない方向けに、器と食材をセットで送る「器の定期便」などの展開を考えているそうです。

写真・取材 MiNORU OBARA / 文 野田夏梨

店舗情報

写真:カフェオレボウル

カフェオレボウル

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