No.077イッチン技法の器

イッチン技法の器

「控えめでも存在感のある」イッチン技法そのままの陶芸家に

「自分の代わりがいない」そんな仕事に憧れて

穏やかな時間が流れる音戸町。車1台がようやく通れる細い旧道沿いで、「アトリエ壱」を営むのは陶芸家の佐々木しずさん。柔らかい土を盛り上げて文様を描く「イッチン技法」を使った作品を手掛け、広島県内外で開かれる公募展で数々の賞を受賞しています。華やかな経歴の持ち主の佐々木さんは物腰が柔らかくてかわいらしい、けれど1本芯が通った強さを感じる女性です。
「幼いころから、物を作る仕事がしたかった」という佐々木さん。高校卒業後の進路に選んだのは、服飾関係の短大でした。しかし広島で洋服を作る仕事は限られおり、短大を卒業した後は、イッセイミヤケに入社し販売員として働くことに。仕事は楽しんでいましたが「私でなければ出来ない仕事ではない」と、どこか満たされない気持ちがあったと当時を振り返ります。「自分がいてはじめて成り立つような仕事がしたい」と漠然とした気持ちを持ったころに、陶芸に出合いました。習い事として始めた陶芸でしたが、「これを仕事にしたい」と感じ、1から学び直そうと陶芸の学校に通うために、仕事を辞めて広島を離れました。

陶芸を基礎から学ぶため、ひとり故郷を離れる

陶芸を学ぶために佐々木さんが選んだのは東海地方。常滑、瀬戸、美濃、多治見など、多くの産地が集まり窯業が盛んな地域です。土も釉薬も技法も種類豊かで、「自由に作品作り」がしたいと考えていた佐々木さんは、愛知県立瀬戸窯業高校陶芸専攻科を受験し見事合格をしました。そこは陶芸を志す社会人が集まるところで、多くの仲間に恵まれながら人生2度目の高校生活を過ごし、陶芸の腕を磨きました。
「海の近くで制作できる幸せ」を佐々木さんは語ります。いつかは広島へ戻ろうと思いながら卒業後4年ほどは愛知に残り、絵付けの仕事をしながら作品作りに励みました。しかし海辺で育った佐々木さんには、山間地域での暮らしは少々息苦しく、広島へ戻ることを決意。2010年に実家のある呉に戻り作陶を始めました。この年に「波佐見 めし椀グランプリ 陶器部門」にイッチン技法を用いた白いお茶碗を出品し、最優秀賞を受賞。翌年には同じくイッチン技法の器で「広島県美術展 工芸部門」の大賞を受賞しました。「それまで入選止まりが続いていたので、認められたことがうれしかった」と佐々木さん。それ以降、イッチン技法の器は、佐々木さんを代表する作品になっていきました。

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白い器にイッチンで個性を演出

「一目見て、私の作品だと分かるものを作る」これは陶芸作家として生きることを選んだ佐々木さんにとって、大きな課題でした。「器として華やかであるよりも、料理を引き立てる器であることが大切ではないか」そんな思いから選んだ「白い器」に、個性を出すためにイッチン技法に目をつけました。「イッチンは伝統的な技法。自分なりに洋風にアレンジしたことが認められたと思いました」と賞を取ったことは、自分の方向性に間違いはないという自信を佐々木さんにもたらしました。
2016年には「LEXUS NEW TAKUMI PROJECT2016」に選ばれ、一躍注目を浴びることに。このプロジェクトは47都道府県から選出された52名が、伝統技術に自由な発想を掛け合わせ、前例のないモノづくりに挑むというもの。広島県を代表して佐々木さんが選ばれ、イッチン技術を用いたランプシェードを制作しました。電球が内側に入り込むデザインで、点けると「イッチン文様」が浮き上がる幻想的な作品です。「いつも一人で制作しますが、アドバイザーと相談しながらの物づくりは新鮮な経験でした」佐々木さんはこれをきっかけに、クリエイターとコラボした作品も作るようにもなり、作家としての世界を広げています。

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佐々木さんおすすめの逸品/イッチン技法の器

佐々木さんの作品は、陶芸を学んだ土地である瀬戸の土を使い制作されています。イッチン技法は、泥漿(粘土を水で溶いたもの)をスポイド型の専用器具にいれ、模様を描きますが、佐々木さんは泥漿にも瀬戸の土を使っているそう。キメが細かい瀬戸の土だからこそ、繊細で細かな模様が生み出されています。「大雑把な性格なので、キッチリとした物づくりは苦手。型を使う陶芸に比べ「ろくろ」はアバウトで感覚的だし、イッチンで模様を描くときもフリーハンドなので、性に合っています」と笑いながらも「土は本来柔らかいもの。その柔かさを表現したい」と作家としての強い思いも語ってくれました。シンプルな器に浮き上がるような文様は、決して派手ではないけれど存在感のあるもの。陶芸家・佐々木しず、そのものの作品に出合いに音戸を訪れてみませんか。

写真 田頭義憲 / 取材・文 山名恭代

店舗情報

  • 店名

    アトリエ壱

  • 住所

    〒737-1204 広島県呉市音戸町北隠渡1-7-35

  • 連絡先

    080-1558-4340

  • 営業時間・
    定休日

    【営業時間】なし
    【定休日】なし
    ※アトリエにご来店の際は、事前に連絡のうえお越しください。

  • HP

    https://www.atelierichi.com/

  • Instagram

    https://www.instagram.com/sizusasaki/

写真:イッチン技法の器

イッチン技法の器

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