No.104山羊チーズ

山羊チーズ

自然な農法から生まれる、世羅育ちの山羊チーズ

自然に負担をかけず、おいしくて体に優しい食材を届ける

広島県のほぼ中央、世羅郡世羅町にある「やぎ丸農場」。自然豊かなこの土地で、重丸雅紀・奈弥香さんご夫妻は、山羊や名古屋コーチンを育て、米作りをしています。米作りで出る米ぬかやくず米は動物たちの餌になり、動物たちの糞は有機肥料として田んぼに還す。「有畜循環型農業」と呼ばれる山羊を中心とした営みのことを「特別なことではなく、人の生活のあるべき自然な姿」と重丸さんは話します。動物たちも自然に近い姿で過ごせるよう、山羊は放牧、名古屋コーチンも平飼いで育て、山羊の妊娠・出産も自然任せ。ミルクを搾乳しチーズを作るのも春から秋にかけてと、重丸さんは自然への負担を少なく、おいしくて体に優しい品を消費者に届けることを一番に、自然に寄り添った暮らしをしています。

自分らしい農家のスタイルを模索し、山羊チーズに辿り着く

やぎ丸農場を始めたのは2014年。初めは5頭の山羊を育てることからスタートし、今では28頭の山羊が世羅の自然の中で暮らしています。農家に生まれた重丸さんは、大学で畜産を専門に学びました。「畜産を選んだのはたまたま」と、このころは農場を持つとは考えてもいなかったそう。そんな重丸さんが卒業後の進路に選んだのは「接客業」でした。接客は大の苦手という重丸さんが、飲食店やブライダル関係の仕事に就いたのは、「苦手な接客を克服したいから」。実家に戻り農業をする傍らで農家レストランを開く、そんなことを朧げに考えていたそうです。「接客の苦手意識は克服できませんでしたが、ワインやチーズの楽しみを知り、山羊チーズに出合えたのは良かった」と当時を振り返ります。
「牛に比べ設備投資が少ない山羊なら飼える。山羊のミルクでチーズを作りたい」と考え始めたころ、奈弥香さんとの出会いがありました。そのころ福山市内で「Bar伊右衛門」を営んでいた奈弥香さんに刺激を受け、「自分もやりたいことをやろう」と就農を決意。チーズ作りを学びに北海道へ渡り、「やぎ丸農場」オープンに向けて準備を始めました。

持続できる農業を、生まれ故郷の未来に残すために

「世羅町で農業をするということは、中山間地域の暮らしを守ること」と重丸さんは話します。傾斜地が多く生産条件が厳しい中山間地域では、過疎化や高齢化による農業の担い手が減り、耕作放棄地が増え、地域の活力や町としての機能も低下が懸念されています。重丸さんが取り組む、稲作、養鶏、酪農を組み合わせたスタイルは、とても手間がかかり効率的ではありません。効率を求めて、規模を拡大することは果たして正解なのか、と迷った末に辿り着いたのは、「生産条件の厳しい中山間地区だからこそ、小規模でも成り立つ農業が必要」という思い。稲作と畜産を組み合わせた循環型農業を試みることを決めました。限られた土地、厳しい生産条件の中、持続的に価値あるものを生み出し豊かに暮らす、そんな生活様式を新しく確立できれば、地域の未来に残せるものになるかもしれない。そんな思いを胸に重丸さんのチャレンジは続きます。

重丸さんおすすめの逸品/山羊チーズ

日本ではまだまだ馴染みが薄い山羊のチーズ。フランスでは「シェーブルに始まり、シェーブルに終わる」といわれ、離乳食から介護食まで使われるほど馴染みが深い物。シェーブルはフランス語で山羊のことで、シェーブルタイプのチーズは、牛乳で作るチーズより歴史は古いと言われているそう。強い個性があるのが特徴ですが、やぎ丸農場では風味と酸味があり、食感がきめ細やかで食べやすいチーズに仕上げています。「同じミルクから作るチーズも季節や加える乳酸菌、製法で味わいもさまざまなので、それぞれの味を楽しんでほしい」と重丸さん。中でもミルクに乳脂肪が多く含まれている春に作られるチーズは、味わい深いそう。現在はチーズBarとして営業している「Bar伊右衛門」でも、やぎ丸農場のチーズが味わえます。我が子のように育むチーズへの思いに耳を傾けながら、一杯を楽しむ時間もまた豊かなもの。そんな時間も味わいに、訪れてみてはいかがでしょうか。

写真 的野翔太 / 取材・文 山名恭代

店舗情報

写真:山羊チーズ

山羊チーズ

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