No.113色絵のやきもの

色絵のやきもの

毎日を楽しくする「やきもの」たち

「渋くてかっこいい」と心魅かれ、陶芸の世界へ

鮮やかな色彩と愛らしいフォルム、一目で彼女の作品だとわかる。個性的な世界観を持つ「やきもの」を作るのは、広島を拠点に活躍する陶芸家の正守千絵さん。日本橋三越本店をはじめ全国各地で個展を開催し、多くの人に愛されている作家のひとりです。
幼いころから物作りに興味があったという正守さん。学生時代も美術が得意で、絵を描いたり、自分で洋服を作ったりしていたそう。高校卒業後は、兵庫の服飾関係の学校に進学。素材を組み合わせる服作りよりも、「もっと素材に触れる物作りがしたい」と芸術系の専門学校を探し始めました。
学校選びで訪れた大阪芸術大学附属大阪美術専門学校で、陶芸の立体オブジェを目にした正守さん。「渋くて、かっこいいと陶芸に魅かれました」と、その時の気持ちを語ります。当時その学校では、立体オブジェで有名な作家を講師に迎えていたこともあり、正守さんは立体作品作りに励みながら、陶芸の世界にのめり込んでいきました。

自分が作りたいと思う気持ちを大切に

「陶芸を仕事にしたい」と心に決めた正守さん。作家としての幅を広げるためにも器作りが欠かせないと、新たな学びの場を多治見市陶磁器意匠研究所(以後は意匠研)に定めました。気鋭の作家を多く輩出する意匠研は、作家への近道として知られ、全国の陶芸家志望者が目指す場所。狭き門を無事に突破した正守さんは、恵まれた環境とレベルの高い意匠研の仲間に刺激を受けながら作品作りに励みました。
卒業間際になり「作家として生きるには器を極めるか、原点である立体オブジェを大切にするか」と作風に迷いが出たという正守さん。思い切って「第7回国際陶磁器展美濃」に立体オブジェを出展したところ、審査員特別賞を受賞しました。作品を選んだ審査員は写真家の荒木経惟氏、その講評には「この作品を見たら幸せになる」「楽しいが伝わってくる」と感情に訴える作品であると書かれていました。この言葉は正守さんにとって「自分の作りたいものに正直に向き合っていこう」と作家として生きる励みになったと振り返ります。

陶芸家の活動を続けることを目標に

「振り返れば、いい時間を過ごしていました」卒業後も多治見に残り、アルバイトをしながら作陶を続けた正守さん。岐阜県現代陶芸美術館でのアルバイトで多くの作品に触れ、作業場をシェアしていた人気陶芸家たちから、毎日刺激を受けながら暮らしていました。そんな多治見での生活も10年を超えた時、アルバイトを辞め作家活動一筋で暮らす決意を固め広島へ戻ります。しかし、ほどなくして父親が他界。「社員の生活を守らなければ」と経営していた会社を引継ぎ、2代目社長に就任。会社の代表者と陶芸家という、二つの顔を持つ暮らしが始まりました。就任当初には、両立は無理だという周囲の声もありました。しかし「やってみないとわからない、好きなら続けられる」と、どちらの仕事にも全力を注ぎ挑み続けています。
多忙を極める正守さんですが、数年前に新しい活動も始めました。広島の陶芸家・漆作家が集まる「タナゴコロ」という活動で、地産地消にこだわる広島の料理人に向けて、料理を引き立てる「広島の器」を提案するもの。「タナゴコロでしかできない活動を通じて、個々の作家活動の刺激になれば」と正守さんは語ります。作家として、タナゴコロの代表として、会社の代表として、1人の女性として、さまざまな役割を持つ正守さん。今の目標は「作家であり続けること」だそう。「作家として活動する時間は限られていますが、陶芸を続けていくことは大切にしたい」と語ってくれました。

正守さんおすすめの逸品/色絵のやきもの

「生活の中にあるだけで、楽しい気持ちになるものを作りたい」と話す正守さんの作品は、とにかく明るくてカラフル。この色使いこそが誰にも真似できない、正守さんの世界観そのものともいえます。正守さんの作品に使われる技法は「色絵」と呼ばれ、釉薬の上に絵付けをした後に、低温で絵具を焼きつけて色づけされることから上絵ともいわれます。正守さんは調色できる絵の具を使うことで、思い通りの色を表現しているといい、「色の可能性は無限にある」とその魅力を語ってくれました。また最近では、多治見にいたころに瀬戸のベテラン上絵職人から学んだ、上絵の伝統柄を描くことも大切にしたいと作品にも取り入れるように。イカやオオサンショウウオ、ワニやラッコなどコミカルに描かれたモチーフと組み合わせることで新たな世界が広がっています。
正守さんはタナゴコロの活動に関わるようになり、ここ数年は器を作るのも楽しくなったそう。器の高台には大きな生き物のモチーフが忍ばせてあるものも。「お皿を洗う人だけが見ることができる特権ですよ」と正守さんはニッコリ微笑んでいました。そんな遊び心を忘れない正守さんの作品がある暮らしは、楽しくなること間違いないですね。

写真 的野翔太 / 取材・文 山名恭代

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写真:色絵のやきもの

色絵のやきもの

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