No.127漆のうつわ

漆のうつわ

漆でかわいい 象形文字のお椀

漆で可愛いものが作れる! 驚きから漆作家の道へ

古くから旧山陽道の宿場町として栄えてきた山口県下松市、花岡。レトロな雰囲気漂うその街へ、漆作家さんを尋ねて行きました。漆のアトリエショップをされている舛岡真伊さんは広島市出身。結婚を機に下松に移住しました。落ち着いた雰囲気の室内に、可愛い漆のお椀やおしゃれなアクセサリーが品よく並べられています。真伊さんの制作のコンセプトは、「漆で可愛いものを」。
子供の頃から絵を描くのが好きで、広島市立大学のデザイン工芸学科に入学しました。2年生で専攻を選択するための学科説明会に行くまでは「漆造形科は選ばないだろう」と思っていました。しかし…漆造形科の教授が紹介するカラフルでおしゃれな作品の写真を見て、「漆でこんなに可愛いものが作れるの!?」と度肝を抜かれたと言います。漆を使って自由で自分らしい表現ができるのでは? 真伊さんは可能性を強く感じ、説明会が終わる頃には漆工芸科を専攻することを決めていたのでした。

天然素材だけどカラフル 漆のおもちゃ

漆で可愛いものが作れる! そう思った真伊さんは、漆の基礎技術を学ぶと、漆のおもちゃを作ってみることにしました。中高生の頃から好きで集めていた、レトロなおもちゃ…これを漆で作れないかな? と思ったのです。漆というと黒や朱塗りの食器をイメージする人が多い中、黄色やピンク、緑などの漆を使い、自分らしい発想で斬新な作品をのびのび作ります。ポップな漆のおもちゃ、赤ちゃんのガラガラ、積み木など。子供が口に入れても害のない、天然素材の漆のおもちゃは反響もあり、大きな自信になりました。
しかし、思うようにいかない時期が訪れます。「グループ展や個展を開きどんどん作品を制作するのですが…漆はそもそも制作に時間がかかる物なのです。締め切りに追われ、構想を練る暇もないまま、自分が納得のいかない作品を産み出してしまったり、おもちゃを作っていていいのだろうか? と不安になったり…どこかモヤモヤした時期が数年間続きました。」

宮島ろくろとの出会いで道が開け始めた

そんな真伊さんを救ったのは「宮島ろくろ」との出合いでした。漆は伝統的に分業制で、真伊さんも木地(ケヤキなどの素地)は木地師さんに依頼をしていました。「木地から自分で挽けるようになったら何かが変わるかも。」現状を打破するため、木材をろくろで回しながらカンナで削って椀や皿を作る、宮島の伝統技法を学び始めます。
「これまでは斬新な物を作って来たけど、自分が器を作るならどんな物がいいだろう?」器に触れる機会が増え、新しい世界に向け走り出し、道が開けました。「漆で可愛いものを」という軸はそのままに、器に可愛い象形文字や動物の絵を描いたり、貝や卵殻で模様を付けたりすることで「自分らしさ」を再び表現できるようになったと言います。
「漆も木地も、天然素材。触れるとほっこりとした温かさがある。使うほど艶が出て、孫やひ孫の代まで引き継ぐことができる“エコ”な素材です。毎日手に触れる器を通して漆の良さを伝えていけたらと思います。」

象形文字椀(小)

こちらは子供も使えるお椀です。水・木・鳥などの自然を意味する象形文字を描いています。実は真伊さんがお子さんを妊娠中に制作した思い入れのある作品。この器には、子供のうちから自然素材の良いものに触れて感性を育んで欲しいという想いが込められています。
実際にお子さんのお食事に使ってみて沢山の気づきがありました。「漆の椀は断熱性と保温性があり、プラスチックの器よりご飯が冷めにくいようです。小さな子供にご飯を食べさせるのは大変ですが、絵を指さして楽しんでくれ、よく食べてくれます。」
真伊さん自身、風邪をひいた時に漆椀でお粥を食べると、じんわりとした椀の温もりに癒され早く治るような気がしたそう。自然を活かした古くからの知恵である漆には、特別な力があるような気がします。
家で過ごす時間が増え、癒される物を探している方や、良いものを大切に使いたい方にはぴったりかもしれません。ぜひ、手に取って確かめてみてください。

写真 加藤郁夫 / 取材・文 日高愛子

店舗情報

  • 店名

    漆作家 舛岡真伊

  • 住所

    山口県下松市(お越しの際は事前にご連絡ください。)

  • 連絡先

    m.urushi.m@gmail.com

  • Instagram

    https://www.instagram.com/masuoka_mai/

写真:漆のうつわ

漆のうつわ

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