No.130表装作品「無限」/書道

表装作品「無限」/書道

心を揺さぶる 感じる書道アート

綺麗に書くだけが書道じゃない

半紙の前に座した瞬間、笑顔が消え真剣な表情にスッと変わる。筆を手に取り、数秒間構図を確認した後、一気に書き上げる。高めた感情を、躍動感ある筆遣いで放出する。書道家・河内裕美/Hiroのスイッチが入る瞬間です。
Hiroさんは広島市出身。10歳から習字を始めました。安田女子大学の書道科を卒業した後、中学、高校の国語と書道の非常勤講師をする傍ら2003年から書道教室を始めました。書道アート、書道パフォーマンス活動も精力的にしています。
綺麗に書くだけが書道じゃないんです、とHiroさんは言います。
「非常勤講師をしていた頃、高校の生徒達が書道展へ行き、好きな作品の感想を書くという課題を出していました。生徒達が選ぶものはどれも楷書で、大胆な前衛書は“よく分からない”と言われる。とても残念でした。きっとそう思われる人は多い…
綺麗に書くことも大切なのですが、書道は芸術、アートです。絵を楽しむような気持ちでもっと身近に感じていただきたいですね。」

人生の転機にはいつも誰かの応援があった

Hiroさんの人生の転機にはいつも誰かの存在があります。彼女が本気で書道に取り組むことになったのは高校生の時。書道部の顧問だった坪井工鷹先生は、現在でも師と仰ぐ存在です。先生の熱心な指導のおかげで書道の全国的な大会で大賞を受賞。探求心旺盛なHiroさんは書道の世界に夢中になり、「これが自分の生きる道だ」と確信を得たと言います。
大学でも書道を専攻。卒業後、書道教室を開きながら中学、高校の非常勤講師、夜は塾講師を務め、多忙を極めます。そんなある時体調を崩してしまい、旦那さんが口にした言葉。「講師の仕事は十分したから、やりたいことをしたら。」その優しい言葉に背中を押されます。出産後、講師から書道家としての活動を本格的に始動しました。
商品や看板のロゴ作成や、ニューヨークでの書道パフォーマンス、フランスで開催されたJapanEXPO参加も、友人や、気にかけてくれる方が繋げてくれたから。いつも転機には誰かがいて、応援され支えられてきたと言います。

身近な幸せが増えれば世界はきっと平和になる

Hiroさんは広島市出身の書道家として、平和への想いを込めた作品を書いています。この日取材した廣瀬神社に寄贈された作品「折鶴」は、よく見ると「アオギリの歌」の歌詞を書き重ね、描かれています。痛み苦しみ、差別などの心の傷…辛い経験から得た助け合い、優しさの心…羽ばたいて行く被爆1世の積み重ねてきた想いを、被爆2世と3世が引き継いで行く。

この作品の展示を見た女性が、思わず涙したのを見て、Hiroさん自身目頭が熱くなったと言います。アート作品は文章で詳細に説明したり、写真のように記録したりするものではありません。でも作品を見た人が何かを感じてくれて、心動かされる。そんな作品を作りたい。
この作品を描くきっかけをくれたのはわが子。子供が幼稚園でおりづるの折り方やアオギリの歌を習ったことでした。家族の絆に感謝し、大切にする。身近な幸せを重ね、幸せな人が増えることで平和な世界は作られる気がします。Hiroさんは優しくそう言いました。

枠にとらわれない大胆な表現

Hiroさんは文字の基本から前衛書まで幅広く手掛けます。女性的な文字を書くことも、力強い男性的な表現をすることもあり、枠にとらわれない自由な表現をします。こちらの作品は「無限」というタイトル。文字ではなく、沢山の「円」が波紋の様に描かれ、余白と墨のバランスが美しい作品。外へ外へと広がる無限のエネルギーを感じます。
書き始める前に精神を集中させ、感情を高めたら瞬間的に筆に気持ちを乗せ、筆先を走らせる。肘先だけでなく、身体全体を使って描く様子はコンテンポラリーダンスのようで思わず息を飲みます。ぐっ、ぐっと力強く払い、筆先をスッと抜くと、再びはにかんだような笑顔を見せてくれました。
制作された作品はHPで見ることができます。様々な書道アートの作成をされていますが、彼女の魅力は書道パフォーマンスなどで目の前で見ていただきたい。書道ってカッコイイし、書道はアートだと確かに感じるはずです。

写真 的野翔太 / 取材・文 日高愛子

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写真:表装作品「無限」/書道

表装作品「無限」/書道

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