No.140漆器

漆器

伝統を受け継ぎ 進化する漆器

寺や仏壇を直す職人から漆作家に転身

旧西国街道の、仏壇や漆の店が軒を連ねた「仏だん通り」。その一角に、大正時代から続く仏壇・仏具店の「高山清」があります。4代目の高山尚也さんは、日本の伝統工芸の技術を受け継ぎながら、安芸モダンという斬新な漆器を作る気鋭の作家です。
曾祖父は漆塗り職人で、祖父も職人。父親は会社の営業。そんな漆一家に育った尚也さん。手先が器用なので職人の道に入り、20歳から28歳頃まで京都と鹿児島のお寺で漆塗りの修業を積みます。広島に戻り、寺院の建具や仏具の修復を7~8年続けました。
漆器制作を始めたのは3年前です。お寺の現場で補修をしている際、「この器も直してくれないか」と依頼されたのがきっかけでした。京都、鹿児島、広島と漆の仕事をしていましたが、意外と漆器に触れることがなかったことに気づきます。改めて漆器に触れてみると…何とも言えない、手にしっくりくる肌感覚がありました。「こんな質感だったんだ!」と驚いた瞬間です。

伝統的な技術で新しい漆器を作りたい

漆職人なのだから漆器を使った方がいいのでは? と、日常的に漆器を使い始めた尚也さん。漆器はとても軽く手になじむし、熱い物を入れても外側が熱くなりにくい。使い心地のよさに感動したので家族の分の漆器も作り、やがて本格的に漆器の制作をするようになりました。
“伝統的な技術を新しい形にする”という想いをコンセプトに、大胆な漆器を作ります。尖った形の酒器や傾いたお猪口、通常食器には使わない「乾漆」の技法を使うなど、遊び心ある自由な表現が花開きました。
そして、なんと制作を始めてわずか3年のうちに「日本伝統漆芸展/朝日新聞社賞」「全国伝統的工芸品公募展/日本商工会議所会頭賞」「日本伝統工芸中国支部展/広島県知事賞」など、名だたる賞を受賞します。
「受賞は自分でも正直信じられないのですが…でも、修業中に見てきた先人の技や、これまで現場で漆の仕事をしてきた経験などの蓄積が活かされているのかもしれないですね。」

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伝統を受け継ぎ進化させたい

20歳から7年間過ごした京都時代、尚也さんには二人の師がいました。その偉大な先人の言葉が今でも心に残っていると言います。
一人の師は「仕事が人を呼ぶようでないといけない。」と言い、職人の心意気を背中で見せてくれました。見る者を圧倒し、その仕事が新しい依頼を呼ぶ程の並外れた仕事を心がけるべしという職人魂です。
もう一人の師は、「固定観念を持つな」という自由な発想を教えてくれました。こだわりが強すぎると型にはまった物しか作れなくなる、既存の枠にはまり過ぎてはいけないよ、と。
最高水準の仕事をしつつ、固定概念を崩す。この二人の先人の教えが尚也さんの背中を押してきました。先人の技と想いがあって、今の自分がある。そして伝統を受け継ぐことも大切だけど、更に進化させるのも今を生きる自分の役目かもしれない。“伝統技術を継承し、新しい形で表現したい。”尚也さんの作品はこれからも進化し続けます。

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日常で使って欲しい 優しい手触りの漆器

今回逸品として選んでいただいたのはこちらの漆器。実は、ラップやヒップホップミュージックが好きな尚也さん。
「この漆器の模様は黒人ラッパーグループ、“ア・トライブ・コールド・クエスト”のジャケットみたいな雰囲気なんです(笑)」。漆で幾何学模様を描きました。尚也さんらしい、遊び心のある作品です。
漆器と言うとちょっと敷居が高く、特別な日に使うという印象かもしれません。でも、漆製品は日々使うことで良さが分かり、表面に艶も出て自分色に育つので、毎日使ってもらいたい物だそうです。そして、もしも傷や割れが生じても、全く傷が分からない所まで修復できる、世界に誇る“サスティナブル”な製品なのです。
自然から分けてもらった木と漆を大切に使い、繋がりに感謝する“丁寧な暮らし”って、ちょっと素敵ですよね。心豊かな時間を増やしたい方は、是非手に取ってみてくださいね。漆の肌触りのよさにきっと感動しますよ。

写真 MiNORU OBARA / 取材・文 日高愛子

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写真:漆器

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