No.164あ必殺‼︎ ムァーボー豆腐

あ必殺‼︎ ムァーボー豆腐

クセになる店主が腕を振るう渾身の麻婆豆腐

メディア出演はお面が鉄則、謎に包まれた中華料理店

誤解を恐れず言うと、麻婆豆腐のメニュー名からもお察しの通り、店主は少々クセモノである。海老のチリソースは、エビツィリ。唐揚げは、ま、いわゆるカラアゲ。メディアに出る際は本人そっくりなお面を着用。と思えば、店内には店主の顔をモチーフにデザインされたポスターの数々に、どんぶりの底にまで店主の似顔絵入り。恥ずかしがりなのか出たがりなのか、実に謎に包まれています。初見のお客さんが入店しようとすると、「うち、料理出るの遅いですよ⁉︎ 」と商売っ気を微塵も感じさせないぶっきらぼうな口調で言ってしまうあたりからも、そこはかとなく漂うクセモノ感。けれど、勇気を出して一度足を踏み入れて欲しいのです。その先に待っているのは、クセモノではなく、クセになる店主・隠善雅彦さんが作る、クセになる絶品中華料理。ふざけているように見えるけれど、いや、ほぼふざけているのだけれど、料理の腕はもちろん、実は真面目な気配り人間。取材を通して見えてきたのは、そんな隠善さんの愛すべき人柄でした。

賄いで食べた麻婆豆腐の味に衝撃を受けて

中華の世界に飛び込んだのは高校卒業後。東京でアパレル系の仕事を目指すも不採用となり、フリーターの道を考えていた隠善さん。すると「当時の進路指導の先生にどこでもいいから一度は正社員で働くべきだと勧められて。じゃあ先生の持っているパンフレットの一番上にある会社にするわ、と冗談半分で言ったんです(笑)。それがたまたま中国料理の名店『四川飯店』で」。就職先をそんな軽いノリで決めてしまうあたりも隠善さんらしいけれど、食べることには一切興味がなく、家で包丁を握ったこともなかった隠善さんは、迷わずホールでのサービス業務を選択。ひとまず就職はしたものの、2ヶ月で辞めようと考えていたと言います。そんな時、賄いで食べさせてもらった麻婆豆腐が運命を変えることになります。「とにかくめちゃくちゃ旨かった。こんな旨い麻婆豆腐があるんじゃ! と。そこから作り方も気になるようになって、空き時間に厨房を覗いて色々教えてもらったりもして」。けれど、『四川飯店』のような大きな店で鍋を振れるようになるまでには早くても6〜7年はかかることを知り、四川飯店出身のシェフが独立した東京の小さな中国料理店で修行をすることに。

想像もしていなかった「自分の店を持つ」ということ

取材中も仕込みをしながら度々話に夢中になっては手が止まる隠善さんに、つい突っ込みを入れてしまうと、「そう、要領がね、めっちゃ悪いんよ(笑)。2つのことが同時進行できなくて、話してたら手が止まっちゃう。だから東京での修行もかなりきつかったですよ。自分の仕事を終わらせることに手一杯で、先輩の姿も見えてなくて。いつ頼まれてもいいように、こそっと練習しておかないといけないのにそんな余裕もなかった。だからとにかく朝早く出勤して自分の仕事を先に終わらせるようにしたりね」と。厳しい5年間の修行を経て帰広し、その後、規模の異なる2軒の中華料理店でさらに修行を重ねます。その頃すでに年齢は40歳手前。「経営のこともわからないし、自分が独立なんてまったく考えたこともなくて」。そんな時に背中を押してくれたのは行きつけの床屋の店主だったそう。「やってみないとわからないけど、人生一回しかない。40歳だったらもし失敗したとしてもまだまだやり直せるよ、と」。その言葉にスッと肩の力が抜け、「自分でどこまでできるのか初めて試してみたくなった」と隠善さんは言います。そして2016年3月、流川に『深夜的中华食堂』をオープンしました。

柔軟に変化させて辿り着いた麻婆豆腐

用意してくれた逸品はもちろん、この道に進むきっかけとなった麻婆豆腐。「修行したお店で学んだことが詰まってるけど、オープンしたばかりの頃とは味は全く違う。今の自分が一番美味しいと思う味に微妙に変化をさせながら作ってます」。「毎日磨くのは自分にとって普通のこと」とさらり言うピカピカの厨房に小気味よい調理音が響き、食欲をそそる豆板醤の香りが広がります。「豆腐は少し崩れてるくらいが好きだから敢えて崩して」「しっかり鍋の底が焼けるくらいに焼き付ける」と工程を細かく説明しながら作ってくれる気配りも、「麻婆豆腐は煮込む料理じゃなくて焼く料理!」とバシッと決め台詞を言った後に「って、陳建一がYouTubeで言ってた」と照れ隠しのようにおちゃらけるところも、全部含めて隠善さんの、『深夜的中华食堂』の、味。看板メニューの麻婆豆腐はもちろん、「初見のお客さんに時間がかかるのを伝えるのも、1人でやってると本当に時間がかかるから。要領が悪いしね(笑)。この後予定があったり、電車の時間があったりしたら困るでしょ?  ほら、親切心ですよ! きめ細かやか心配り!」と笑う隠善さんを味わいに。お面の下の素顔に会いに。時間はたっぷりと確保して。きっと、ハマります。

写真・取材・文 柚木藍子

店舗情報

  • 店名

    深夜的中华食堂

  • 住所

    〒730-0022 広島市中区銀山町11-25第一ダイヤモンドビル1F

  • 連絡先

    082-248-0655

  • 営業時間・
    定休日

    【営業時間】19:00〜3:00
    【定休日】不定休

  • Instagram

    https://www.instagram.com/inzenmasahiko/

写真:あ必殺‼︎ ムァーボー豆腐

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