No.026革と天然木の鞄

革と天然木の鞄

個性派なのにフォーマルにもデイリーにも使える

山本さんとモノづくりとの関係

実は『ヒトツトテ。』の作品が大好きで、カバンやアクセサリーをいくつか持っていました。無駄なものを全て削ぎ落としたような潔いデザインがカッコよくて、それを作る山本美直さんに興味津々でした。作風から、ちょっと無口な女性をイメージしていたのですが、お会いしてみると、コロコロとよく笑う可愛い女性で「よくしゃべるのでごめんなさい」そう言いながら、色々な話をしてくれました。
ものづくりは子どもの頃から好きだったこと、小学校の時に流行ったフェルトのマスコット作りに夢中になったこと、編み物は好きだったけどミシンは苦手だったこと…。「何も勉強してないのに、モノを作ることには妙な自信があって。『自分はなんでも作れる!』って思い込んでましたね」。そう聞くと、作家という仕事はまさに天職だったのだなと思うのですが、それはちょっと違うようで…。

生きるために作る

「たしかに昔からものづくりは好きでした。料理するなら調味料から作ろうと思ったし(笑)、服も見よう見まねで作ったり。でも、趣味の延長線上でものづくりを仕事にした、というのとはちょっと違うんです」という山本さん。「一人で子どもを育てなきゃいけなかったから、生きるためだったんです」。
手に職をつけようと料理店で働きながら料理を勉強したり、パンインストラクターの資格を取得してパン教室を開いたり、家でできるからと内職の縫い子もしていたそう。いくつもの仕事を掛け持ちする生活を続けて数年が経った頃、心より身体が先に悲鳴をあげ、生死をさまよう大病を患います。「はて、どうしようと。さすがにこの身体じゃ、掛け持ちは無理だと。ダメだと思ったものからフェードアウトしていって、最後に残ったのが今の作家という仕事だったんです」。

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唯一無二の作品づくり

体調とにらめっこしながら、ヴィンテージ系の生地で布小物を作る作家として、歩みを始めた彼女に一つの転機が訪れます。広島市佐伯区にある『FRASCO』というショップのギャラリーへ出展させてもらうことになりました。オーナーは作品に対して『これはいい、これはダメ』とはっきりジャッジしてくれたと言います。「第三者の目線としての的確なアドバイスはとても勉強になりました」。これをきっかけに作家としての才能を少しずつ開花させ、ブランド名も『ヒトツトテ。』に変えました。ヴィンテージパールや真鍮を使ったアクセサリーを作ったり、日傘を作ったり、作品の幅もどんどん広がったと言います。「飽き性だからすぐ違うものを作りたくなる」と言いつつ、「流行っているものは作りたくなくて。作品の希少性は大事にしたいんです」。口に出しては言わないけれど、作家として唯一無二の存在でありたい、そんな作家としてのプライドをこの言葉に感じました。

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革と天然木の鞄

『ヒトツトテ。』は、イベントやギャラリーへ出展しての手売りが基本。縁を繋ぎ、少しずつ販路を伸ばしていきました。目標だった百貨店へも出展。それに合わせて新しく生まれた商品ラインが、革でつくるバッグやアクセサリーでした。今回、紹介いただく逸品も黒革の鞄です。手彫りの天然木の持ち手が印象的でユニークなデザインですが、カジュアルにもフォーマルにも持てるし、デイリー使いにちょうど良いサイズ。革は植物タンニンで鞣(なめ)したものだけを選び、シボの表情にもこだわっているそう。持ち手も色々なパターンを考えて「自分で木を彫ってみようとも思ったんですが、案外と力がいるんですよ。こりゃ無理だと思って、作家さんにお願いしました(笑)」おどけたように言うけど、どうやら本気で彫ろうと思っていたようです。そんなお茶目な素顔に触れて、『ヒトツトテ。』の作品がもっと好きになりました。

写真 加藤郁夫 / 取材・文 イソナガアキコ

店舗情報

写真:革と天然木の鞄

革と天然木の鞄

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