No.032ニューヨーク・チーズケーキ

ニューヨーク・チーズケーキ

こだわりがギュッと詰まった看板商品

人生を変えた3月11日の出来事。

その日、山崎しづかさんは息子さんの卒園式に出席していました。式が終わり、お友達のマンションに集まって、卒園式の様子を振り返りながらくつろいでいたその時、下からドーンと突き上げられるような衝撃を感じ、その後、マンションは激しく揺れ続けました。
2011年3月11日。東日本大震災が起きた日、山崎さん一家は埼玉にいました。震災後も続く余震や食糧不足、水の買い占め、放射能の恐怖。「食料、水といった毎日の生活に必要なものが手に入れられないというのはとてもストレスでした。放射能の影響も心配だったし、街の景色もなんだか黄色っぽく、どんよりとして見えたんです」としづかさん。「ホコリやチリで本当に黄色くなっていたのか、精神的な辛さからそう見えたのか、今となってはわかりません。でもそれくらい追い詰められた状況でした」しづかさんの言葉に添えるように、夫の秀男さんも当時の状況を教えてくれました。「ここに住み続けることはできない」。そう判断した二人は、西日本への移住を決断。2012年、秀男さんの就職先が見つかった広島に移り住みました。多くの人にとってそうだったように、山崎さん一家にとって、震災はとてつもなく大きな出来事でした。

お店は広島で暮らし続ける決意表明

しづかさんは移住前から、東京でお菓子教室の講師やコーディネーターとして活動しており、お菓子のレシピ本も8冊出版するなど、お菓子を軸に活動していました。広島でもお菓子に関わる仕事を続けたいと、気になっていたカフェにプロフィールを持参するなどして、取引先を開拓。お菓子のワークショップやメニュー提案、新聞でお菓子にまつわるコラムを連載するなど、広島でも活躍の場を広げました。しかしそれでも、自分のお店をしたいとまでは考えていなかったしづかさん。お店の開業を考えるようになったのは、パタンナーだった秀男さんが会社を退職することになったのがきっかけでした。
広島で再就職をするか、埼玉に戻るか…。しかし移住して3年、広島でのコンパクトな暮らしがすっかり気に入っていた二人は、そのどちらでもない、広島に残ってお店を開く決心をします。友人知人の励ましや支援も受けながら、1年の準備期間を経て2016年、広島市西区に『SWINGING BIRD KITCHEN』をオープンしたのでした。

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“特別感”の秘密

パウンドケーキやマフィン。そんな見慣れたお菓子も、『SWINGING BIRD KITCHEN』のそれは見た目も食感も明らかに違って、舌の肥えたお菓子好きも、たちまちその虜になってしまいます。
しづかさんが作るお菓子の“特別感”は、実家がペンションを営み、客をもてなすためのパンやお菓子に囲まれて育ったという環境が育んだものかもしれません。それに加えてしづかさんに大きな影響を与えたものがあるとすれば、それはあるお菓子との出会いでした。今も東京の小金井で絶大な人気を誇るお菓子店「オーブン・ミトン」の店主・小嶋ルミさんが作るお菓子です。
それまで親しんでいたお菓子とは見た目も食感も味も全てが違う、小嶋ルミさんの作る斬新なお菓子作りに心底感動したしづかさん。ついには「オーブン・ミトン」で働くために製菓学校へ入学しますが、いろんなハプニングが重なり、働くことは叶いませんでした。しかし、小嶋さんが出版したお菓子のレシピ本を片っぱしから買って、何度も作り込んだといいます。
「例えばうちのマフィンは、キメが細かくて口の中でほぐれていくような食感が特徴なのですが、それはきめ細かい気泡を作って生地を整えるという小嶋さんの手法がヒントになったんです」。今はそんなしづかさんのこだわりが、たくさんの人の舌と心を魅了しています。

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山崎さんおすすめの逸品/ニューヨーク・チーズケーキ

今回、しづかさんが逸品に選んでくれたのは「ニューヨーク・チーズケーキ」。
お店を始めるにあたって、看板商品を作りたいと考え、思いついたのがチーズケーキでした。しづかさん曰く、「チーズケーキは個性を出しやすく、店のこだわりが感じられるお菓子」なのだそう。
とりあえず、広島で美味しいといわれているチーズケーキを試食したところ、当時は全部、ふわっとしたスフレタイプのチーズケーキばかりだったそう。それならギュッと詰まった、とことん濃いチーズケーキを作れば、それがうちの個性になると思ったといいます。「みんなにウケなくてもいいから、濃厚なチーズケーキが好きな人に響くチーズケーキにしよう」。そうして生まれたのが、この「ニューヨーク・チーズケーキ」でした。
フランス産の高級チーズを使っているので、コクがあり濃厚だけど口どけがいいのが特徴。そしてもう一つこだわっているのがケーキの高さ。「一般的なチーズケーキより高くしているんです。この高さが可愛いんです」。そのチーズケーキは、濃厚なチーズケーキが好きな人はもちろん、新たなチーズケーキファンも生み出しています。

写真 加藤郁夫 / 取材・文 イソナガアキコ

店舗情報

写真:ニューヨーク・チーズケーキ

ニューヨーク・チーズケーキ

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