No.166カッティングボード

カッティングボード

自然に逆らわずに生きる。不器用だからこそ、一つ一つを丁寧に。

ついつい触れたくなってしまう。

木のように温もりのある方でした。広島市西区草津にたたずむ白壁の古民家の引き戸を開けると、そこは木に囲まれた空間です。窓から差し込む光は心地よく、まるで森の中のログハウスにでもいるような錯覚を覚えます。そんな癒しの空間に所狭しと並ぶ机や椅子、そしてカトラリーはなんとも魅力的。ついつい触れたくなってしまいます。それはまるで赤ちゃんのりんご色のほっぺたみたいに、小さな子どもの艶やかな髪の毛みたいに、心を吸い寄せてしまいます。「温かいもの」や「可愛らしいもの」ってどうしてこんなに触れたくなってしまうのでしょうか。そんな温度のある木製家具やカトラリーを生み出しているのが、ご紹介する『KAGU-YA』の岩見学さんです。

回り道。

幼い頃からものづくりが好きでした。例えば町の至る所にプラモデル屋さんがあった幼少期。そのショウウィンドウに自分が作ったプラモデルを飾ってもらうのが夢でした。それに建築現場で働いていた父親の影響もあり、学さんの周りには子どもの頃から木が溢れていました。父親の仕事場に転がっている木の切れ端をくっつけたり切ったりして遊んでいた学さんにとって木は、幼い頃からとても身近な存在だったのです。そんな学さんが「木とものづくり」への道を進むのはごく当たり前のようにも思えますが、意外にもそこにはほんの少しの回り道がありました。もともと木とは無縁の仕事に就いていた学さん。その頃はまだ、ものづくりは趣味でした。そんな学さんが、何十年後の自分の在り方や家族との過ごし方を考え始めて、木とものづくりの道に進もうと決意したのは、28歳の時だったのです。「幼い頃から親しんでいた木を仕事にして生きる。」本当にやりたかったことを思い出した学さんは、30歳を目前にして長野県の「山のカヌー工房」に弟子入りを決めたのでした。

暮らしに寄り添ってくれる温もりのあるもの。

長野での修行時代、学さんは木に囲まれた環境で、木とともに過ごしました。木と向き合う日々の中で学さんは「木を大切にする気持ち」を培います。「木は切って使って終わりではないんです。木は、暮らしに寄り添ってくれるありがたい存在なんです。」まるで、我が子のことを話すように優しい瞳で話す学さん。そのものづくりの姿勢も、子育てのような愛で溢れています。「急ぎ過ぎたら上手くいきません。木の声を聞きながら、無駄なことだと思っても手間を惜しまず、じっくりと触れ合うようにしています。」我が子と接するかのように木と向き合う学さん。そんな学さんが一つ一つ丁寧に生み出すからこそ、この空間にあるものたちは触れたくなる魅力に溢れているのかな、と思わされます。

木の目に逆らわず、自然に。

さて、そんな学さんにご紹介いただいたのは「延寿(えんじゅ)」という名の縁起の良い木から生まれたカッティングボード。料理にも、お皿にも使える逸品は、毎日の暮らしに寄り添ってくれます。もちろん一つ一つが手作りで、他に同じものは存在しません。「運命というと大袈裟ですが、お客様が選んでくださったと同時に木もお客様を選んでくれたんです。そんな大切な出会いを感じていただけると嬉しいです。」と学さんは言います。
「どういう形になりたい?」学さんは今日も木に語りかけます。木の目に逆らわず、寄り添って、木なりに、木なりに。「人との出会いと、ものとの出会いのおかげで20年以上も続けてこられました。」と話す学さん。急がず、わがままを言わず、上手くいかないときは一息ついて回り道もする。学さんのものづくりは、愛情という名の手跡がついた、それはそれは温かいものでした。

写真・取材・文 MiNORU OBARA

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