No.167ブリコラージュおスコーンプレート

ブリコラージュおスコーンプレート

自分の手で植物を飾って仕上げる、アートなデザート

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島の恵みや風景、そして店主に会いに行きたくなる店

広島湾に浮かぶ自然豊かな江田島。そこで最近、密かに話題を集めているレストランがあります。島の西海岸沿い、沖美町四郎五郎岬に佇むポタジェ&レストラン『Bricolage17』。2020年11月のオープンすぐから、土日曜・祝日限定のランチは常に予約でいっぱいに。「またすぐに行きたい」と、訪れた人は口々にSNSで絶賛しています。
「わざわざ遠いところまで来てくださって、ありがとうございます」。そうにっこり微笑みながら出迎えてくれた店主の空本健一さん。その暖かな空気感にちょっぴりしていた緊張がゆるりとほぐれ、「絶対素敵なお店だ」そう確信しました。包み込むような大らかな話し方、まるで物語を耳にしているような優しい言葉選び、そしてユーモアも忘れない姿勢。ただの接客ではなく、1人1人と会話を楽しむ。たくさんの人に愛される人って、きっとこんな人物なのでしょう。
ちなみに現在はオーナーシェフとして、仕込みから調理までをすべて1人で手がけている空本さん。ここを開店させる前も店舗を運営していましたが、なんと内容は全く異なる、ユーズドセレクトショップ。その振り幅の大きさに驚きました。

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幸せな閉店を経て、生まれ育った地へ

2004年、空本さんが安佐南区山本にオープンさせた『used select shop RiCKLE!』は、倉庫を改装した巨大な秘密基地を彷彿とさせる建物に、洋服だけでなく、花もあれば家具も並ぶ、不思議な魅力を持つ店でした。開店当初はあまりお店もないような土地でしたが、空本さんの呼びかけにより地域にある店を巻き込んでのパーティーやイベントが企画され、どんどん活気づいていく街に。空本さんを慕い、一緒に楽しいことをしたいと、たくさんの仲間が集まりました。そして、17年目を迎えるタイミングで、突如店の歴史に幕を下ろすことを発表します。
「いつか生まれ育った江田島に帰ろうと思っていたんです。島に帰る度にどんどん人口が減っていくのが寂しいと感じていて…。でも最近、少しずつ人が訪れるようになって島が元気になってきた。美味しいパン屋ができたりね。それならワシも、島に帰ってこれからできることをやろう、そう決めたんです」。
テーマを「幸せな閉店」と決め、約3ヵ月前からカウントダウンをはじめた空本さん。たくさんの人が訪れ、閉店する頃には、お客様からの愛あるメッセージが建物の床や壁にびっしりと残されていました。―…そして閉店からちょうど1年後の2020年11月3日、江田島に開店したのがBricolage17です。

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島暮らしを感じられるような場所にしたい

“ブリコラージュ”とは、ありあわせの道具や材料を用いて、自分の手でフレキシブルにものをつくること。その店名が意味するように、「料理は今手に入るものでつくる」というのが空本さんの信条です。そのため、1日17名限定のランチコースには、使用する食材をあえて決めていません。心に留めているのは、90%以上江田島産の食材を使うことを目指す、ということだけ。毎週木曜と金曜に、空本さん自身が島をぐるっと一周し、農家さんや漁師さんから直接集めたそのときどきの旬の食材が、ひらめきに溢れる美味しい一皿へと昇華されるのです。
また、菜園を意味する“ポタジェ”を冠していることからも連想されるように、敷地内には野菜やハーブなどさまざまな植物が混在して植えられています。「ここを食べられる森に育てていきたい。そしてゆくゆくは、ここでできた種をその辺の道端にも撒いて、江田島全体をエディブルアイランドにしたい。島中に食べられるものがいくらでもあれば、とりあえずこの島に住めば飢えることはないって思うでしょう(笑)。ただ観光地として消費されるだけでなく、縁もゆかりもない人たちが江田島に住みたいと思ってもらえるような、島の暮らしを思い描ける場所をつくっていけたらいいなと思っています」。

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ポタジェで摘んだ草花で完成させる一皿

「庭からハーブや花を積んできて、好きなようにお皿に飾ってください。このメニューは、お客様に仕上げていただいて完成です。アイスが溶ける前に戻ってきてくださいね」。逸品の「ブリコラージュおスコーンプレート」をテーブルに運んできた空本さんはそう言って微笑みました。なんて粋な楽しみ方なんでしょう。靴を履いて庭へ飛び出し、宝探しのスタートです。「子どもたちは夢中になってなかなか戻ってこないんですよ」という言葉にも納得。だって、大人でもこんなにワクワクするのだから。
皿の上には、「おしのスイーツ」のスコーンとアイスクリーム、そして江田島で採れたフレッシュな果物が散りばめられています。そこへ自分で選んだ季節の花々のイエローやピンク、ハーブのグリーンで彩りを添えていく。それはまるで、真っ白なキャンバスに季節の風景を描いているようでした。ざくざくした食感のスコーンはほんのり甘い素朴な味わいで、シンプルだからこそ、フレッシュな果物の弾けるようなみずみずしさが光ります。添えたハーブが口の中でふわり。寄せては返す波の音をBGMに、だんだんとオレンジ色に染まる瀬戸内海を眺めながら、甘く爽やかな幸せの余韻に浸りました。「いつかこんな場所に住んでみたい」そう思うのは、もはや必然だと感じるほどに。

写真 加藤郁夫 / 取材・文 佐藤明日香

店舗情報

写真:ブリコラージュおスコーンプレート

ブリコラージュおスコーンプレート

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