No.019茶花茶(ちゃばなちゃ)

茶花茶(ちゃばなちゃ)

枯れてもなお美しい。香るのは日本本来の心。

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古民家に香るお茶の味わい

尾道本通商店街と海に挟まれた路地にひっそりと佇むTEA STAND GEN。少しだけ入り組んだ小道の先にあるそのお店は、古民家を再利用した昔ながらの建物で、もしかしたら何度もその前を通り過ぎてしまうほど尾道という地に馴染んでいます。
木造の梁をくぐってお店に入ると、そこはまるで明治時代にでもタイムスリップしたかのような空間。一枚板のカウンターには、茶器が並べられています。
店主は高橋玄機さん。その穏やかな雰囲気と柔らかい笑顔は、お店に入った時から感じていたお茶のいい香りにぴたりとリンクします。

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枯れた花にも美しさを見出す心

高橋さんがお茶の魅力に出会ったのは、およそ15年も前。何かを見つけたくて留学したアメリカで、高橋さんはアジア人に対する偏見を目の当たりにしたそうです。当時のアメリカで感じたアジア人への差別、その経験が逆に日本人のアイデンティティを探るきっかけになったと高橋さんは言います。「日本人のルーツ」を探る中で出会った「茶の心」に高橋さんは感銘を受けます。
「それまでの僕は、『綺麗なものは綺麗だけれど、古くなったものには価値がない』という思考で生きていたことに気づかされました。」と話す高橋さん。けれど、茶の心に表される日本の価値観は真逆だと知ったそうです。
「枯れた花にも美しさを見出す心」に共鳴した高橋さんは、お茶の道を歩むことになります。

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無肥料無農薬への挑戦

尾道でお店を営む高橋さんですが、そこで取り扱うお茶はすべて自身の茶畑で育てています。京都のお茶屋さんや鹿児島の生産農家での経験を経て、2016年にTEA FACTORY GENを創立します。広島に戻ってきた高橋さんがたどり着いたのは、広島県世羅町の茶畑。農薬を使う慣行農法に違和感を覚えていた高橋さんが模索し実践しているのは自然農法です。無肥料無農薬で育てたお茶には、その土地が本来持っているエネルギーや茶葉本来の甘みや爽やかさが宿ると言います。高橋さんの育てるお茶の木は、樹齢50〜60年。そして、その木はその地に種から植えられ育てられた在来茶です。

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自然農法でしか生み出すことができない『茶花茶(ちゃばなちゃ)』

現在高橋さんが育てるお茶は、7種類。そのラインナップは、煎茶、番茶、紅茶、烏龍茶、ほうじ茶、浜茶、そして、茶花茶。その中で今回ご紹介するのは、『茶花茶』。茶花茶とは、その名の通りお茶の花で香りづけをされたお茶。優しくフルーティーで味わいの深いお茶です。
ある日、手付かず茶畑を訪れた高橋さんは、今までに嗅いだことのない香りを感じたと言います。「ジャスミンよりも柔らかく儚いその香りの正体は、お茶の花でした。」その香りとの出会いをきっかけに、茶花茶が生まれます。香料を使うことなく自然の香りがそのまま活かされた一杯です。驚きなのは、慣行農法を行う茶畑にはお茶の花が咲かないということ。化学肥料で安心を与えられたお茶の木は、花を咲かせようとしないそうです。言い換えるなら、お茶の花は生命力の証。そんな自然の力が香る茶花茶には力強さが宿ります。
「人の手と、お茶と、太陽があれば、何でも作れる。そんな人になりたいです。」と高橋さんは言います。人々の日々の中にちゃんとお茶があり、「注ぐ・注がれる」という所作の中から「和」が生まれる。そんな文化を大切に広げていきたいと話す高橋さんに「枯れてもなお美しい」という日本文化の真髄を見た気がしました。

写真・取材・文 MiNORU OBARA

店舗情報

写真:茶花茶(ちゃばなちゃ)

茶花茶(ちゃばなちゃ)

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