No.014リングスタンド

リングスタンド

ガラスの持つ魅力を伝えたい

自然と、家族と、暮らしながらガラスをつくる

雲の隙間から弱々しい光がのぞく曇天の中、NAVIを頼りに藤島孝臣さんの工房を訪ねたのは晩秋のある日のこと。廿日市市街地から10数分ほど走ったところで、車1台すれすれの細い山道を案内され、ドキドキしながら進むことさらに数分。辿り着いた先にあったのは、木々の緑に囲まれるように建つ工房。「なんて清々しい空気に満ちた空間なんだろう」。車から降り立った瞬間、道中の不安だった気持ちは一瞬で吹き飛んでいたのでした。
工房の中に一歩足を踏み入れると、アンティークな什器に藤島さんのガラス作品が並び、入口付近にある溶解炉の中で、溶けたガラスがマグマのようなオレンジの光を放っていました。その工房の前で私たちを出迎えてくれた藤島さんは、ここの主にぴったりの、職人らしく、そして温かさに満ちた人物でした。

運命的なガラスとの出合い

幼少期から何かを作ることに興味があったという藤島さん。「といっても、プラモデルも作れない子どもだったんですけど、粘土は好きだったからやっぱりゼロから自分で形を作るっていうことが好きだったのかなあ」。
とりあえず大学に入ったものの、したいことも見つからず、「机に向かって仕事をするのだけは無理」と、好きだった車のカスタムペイントをする会社に就職。それなりに楽しかったものの、何となく自分のやりたいこととは違う、そんな悶々とした日々を過ごしていたとき、たまたま訪れた体験型施設で、吹きガラスに出合います。ドロドロに溶けたガラスが10分くらいで形になるのを見て、直感的に「これだ!」と閃いた藤島さんは、すぐに会社を辞めて、片道切符を手に沖縄へ。ちなみになぜ沖縄を選んだのかと尋ねると、「海を渡らないと行けない環境に身を置くことで、自分を追い込んだ」のだそう。当時の決意のほどが伝わってきます。

自分の「らしさ」を大切に

沖縄北部のとある工房で9年とちょっと修行した藤島さん。外国語レベルの方言に苦労したそうですが、最終的には師匠や仲間ともいい関係を築き、ガラスづくりのいろはを体に染み込ませ、2013年に帰広。2014年、廿日市市の山奥に「吹きガラス工房 FUJI321」を開窯しました。現在は工房で作品づくりに励む傍ら、ギャラリーに出展したり、工房でワークショップを開いたりしています。
かつて作品をつくるとき、グラスの高さ、薄さをいかに均一にするか、という技術にこだわっていた時期もあったそうですが、ある日、工房を訪ねてきた友人の画家に「それなら100円均一のグラスと変わらないよね」と言われ、ハッとしたといいます。以来、「自分だから作れるガラス」を意識しているという藤島さん。「使うのがもったいないと棚の奥にしまわれるようなものよりは、日常でバンバン使ってもらえるような作品をつくりたいですね」。そのことば通り、家では藤島さんがつくったグラスを可愛い娘さんたちが取り合って水を飲んでいるそう。

藤島さんの逸品/リングスタンド

そんな藤島さんが今回、逸品に選んだのはリングスタンド。雫のような愛らしいフォルムが可愛いすぎる一品。
ガラスは温度を上げることによって水に近づく性質があり、気泡が抜けて透明度を増していきます。最近のトレンドとして、そんな透明度の高いガラスが好まれる傾向があるそうですが、そういうトレンドも認めつつも「温度が低いときに残る気泡だったり、ゆがみやひずみもガラスの特色なので、そういうのも大事にしたい」と藤島さん。まさにこのリングスタンドは、そんな藤島さんの気持ちを反映させた、一つひとつ形も色も表情も異なる、唯一無二のプロダクト。置く場所、そして光の当たり具合でコロコロ表情を変えるその姿は、きっと毎日眺めていても飽きないことでしょう。

写真 加藤郁夫 / 取材・文 イソナガアキコ

店舗情報

写真:リングスタンド

リングスタンド

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